「電話は誰のモノか」という問題と「今のままでいいですから」という人

はてブでこんな記事を拾った。

NTT和田氏の「電話網は国民の物ではない」発言にソフトバンク孫氏が反論
「通信・放送の在り方に関する懇談会」という会合でNTTの中の人が「電話網を国民のものというのはやめて欲しい。あれは株主のものだ」と発言して、ソフトバンクの中の人・孫たんとかに叩かれたという話らしい。はてブやdで反応を見てくと、まあ予想通りというかNTTより孫たんとかに同意する人しかいない感じ。
確かに直収電話サービス(おとくラ○ンとかメ○ルプラスとか)が始まって必ずしも「電話=NTT」という風にはならなくなってきた昨今の状況を鑑みると、NTTの中の人の「電話網は国民のものでなく株主のものだ」という発言は時代の流れと半周くらいズレているように感じられる。NTTも曲がりなりにも営利企業の一つなわけだからそう言いたい気持ちも分からなくはないけれど。
ちなみに記事だけだとどういうシチュエーションとニュアンスで出てきた発言なのかがはっきりしない部分もあるんで議事録か何かないかと探してみたら、会合の様子が動画配信(WMV・300kbps)されていた。でもうちはADSLのくせに100kbps程度しか出ないし動画も3時間近くもあるようなので断念。某ソフトでゴニョゴニョするとダウソできるんだけどそれもマンドクセ-もんで…

で、孫たんは「我々の計算では、ユニバーサル回線会社で光回線を整備すれば、1回線につき月額690円で実現できる」とか「国民のためにも6,000万回線の光ファイバ化を実現すべき」とか、「(NTTが資本分離されれば)短期でも長期でもユーザーにメリットはある。競争はより安くいい性能のものを提供するものであり、競争が困るというのはNTTだけ」とか威勢のいいことを言ってはいるけれど、光ファイバって国民みんながみんな引きたがるものなんだろうか。今の状況が変わることを快く思ってる人しかいないもんなんだろうか。自分としては「変わった方がいろいろ面白そうだ」と思ってるけれど、世の中には漏れみたいな人間しかいないわけではないし。

確かに光ファイバにしちゃった方が確かに便利だ。インターネットだって無闇に早くなるし、たといインターネットをあまり使わないところに引いても後々便利かもしれない。NTTの基本料金だってなかなか安くならないし、公共性の高いサービスは民間に開放して少しでも安く提供できるようにした方がいい。ある程度若い連中はそう思う。漏れもそうだと思うしみんなも多分そう思うだろう。


でも世の中には、

電話のこととかなんて考えてないしめんどくさい。インターネットだって息子達に任せてあるし、息子くらいしか使わないしよく分からない

今までずっとNTTだったんだからこれからもNTTのまんまでもいいじゃないか。安くなるんだかなんだか知らないけど何か新しいサービスばっかり出てきてるからよく分からない

光ファイバーってなんか面倒そうだ。結局フレッツでも100kbpsくらいしか出ないけど常時接続だからこれでいいや

という人も多い。多分「光ファイバーにしてぇ!」「電話やネットはNTTからもっと自由になれる!」と思ってる人よりもかなり多いんじゃないだろうか。

実は漏れは、ついこないだまで某電話会社の直収電話サービスのテレアポをやっていた。諸事情あってもう辞めてしまったけれど、その仕事をしている中で圧倒的に多かった断り文句が、上記のような「めんどくさい」「よく分からない」「今のままでいいです」「NTTさんに任せてあるんで」というものだった。
単にいつもこういう勧誘電話が掛かってくるからこんな風に言い逃れしてる、というところもあるんだろうけれど、「今のところから他のところに変えるのは面倒だ」「電話のことを言われてもいつも払ってる基本料金すらよく分からない」と実際に感じている人、不安に思ってる人は多かったんじゃないか思う。自分たちにしたって、仕事の研修で上司から「君たち、携帯電話の通話料金とか基本料金って覚えてる?」と問われて狼狽するほどだったくらいだ。固定電話よりよく使う携帯電話にしたって料金とかについてはあまり意識しないし、安いからといってパッと他のキャリアに飛びつくのもどことなく抵抗感がある(これはまだナンバーポータビリティが始まってないからかもしれないけれど)。
「変えたい、変わりたい」と思う人々がいれば、それ以外の人々の中には一定数の、恐らく多数の「変えたくない、変わらなくてもいい」と思う人が必ずいるはずなのだ*1
そういう人には、いくら「面倒なことは何もなくて、お客様の同意さえ得られれば手続きはこちらで致しますよ」とか「インターネットはやっぱり早いほうがいいですよね」とか言ってもあんまり聞き入れてはくれないかもしれない。
それどころか、かえってNTTグループが完全に資本分離されたりとか民間企業がより多く参入してきたりという状況になると今よりもっと「分からない」「めんどくさい」「今のままでいいですから」と思うようになるかもしれない。それに新しいサービスにノるかノらないかは、企業でなく客個人個人が決めることだ。「6000万回線を光にすべき」と言ってはみても、「変えるのってめんどくさいんでしょー…私今のままでいいです」という人はやっぱりいるだろう。直収電話が何個か出てきてるだけの現状だって「よく分からない」人が多いのだから。正直言うとそういうサービスを案内してた漏れ自身だってどれだけ分かってたか怪しいもんだ(;´Д`)
当然今は「今のままでいいですから」と言ってる人もいずれは分かってきたり息子さん達に説得されて(or勝手にやらされて)、光ファイバを引いたり直収電話にしていくこともあるだろう。いずれは変わっていくことを意識して自分で考えるようになる人も出てくるかも知れない。でもどうしても一定数以上はついて行けない・ついて行かない人が出てくると思う。
いくらNTTの中の人が「電話網は国民のモノでなく株主のモノ」とか言ってネット界隈で悪印象を持たれたりしても、面倒な人は面倒だし、分からない人は分からないし、そういう人はそういう人でNTTを信頼しきっていくことになるんだろうか。

自分はまだ若い方に入る人間なので、安くなったり選択肢が増えることは大歓迎だ。でもそう思わない、よく分からない人だっている。そういう人が突然「600万回線全てが光ファイバ」「大きなNTTが存在せずいろんなNTTが存在する世界」(?)に放り込まれたらどうなるんだろうか。別に新しいサービスに興味もなく今までのサービスをそのまま使うから(テレアポからの電話の多さに悩まされつつも)関係ないかも知れないし、より混乱してしまうかも知れない。どっちかは分からない。

それはともかく、孫たんとかの「みかかの中の人は寝ぼけたことを言ってやがる。一体電話網は誰のモノだと思ってやがんだ」と思う人たちにとって大切なことは、目先の自由化はもちろん、いろいろ自由化されたりした後のことを考えることだと思われ。自由化されいろんな企業が参入しやすくなることで料金システムとかが複雑になって、「もともとよく分からない人」だけでなく「分かってるつもりだった人」まで「よく分からない」「今のままでいいですから」な人になってしまっては元も子もないんじゃないだろうか。漏れもADSLが遅いのでBフレッツあたりにしたいと考えてるんだけど、Bフレッツって正直マンションタイプだかなんとかいろいろあってよく分からん…orz
実際今の携帯電話の料金体系だって、使ってる人がいっぱいいるくせによく分からないことが多い。ADSLとかだって「○ヶ月無料」とか「今なら○○料が無料!」とかそういうキャンペーンが多すぎて、いまいち料金体系が分かりにくいところが多い。これからの通信サービスに求められてるのは、値段の安さやスペックだけでなく、「使ってる側としてあまり意識しなくても簡単に始められ、安く使える」という「面倒なことのなさ」、というか「わかりやすさ」なんじゃないだろうか。

孫たんが「3,000万回線だけ敷設すれば、残りの3,000万回線とのデジタルデバイドはますます進むだろう(後略)」と言ってるけれど、「やりたがってる人ともうやってる人の間の格差」以外にも「やりたがる人とやりたがらない人の違い」(not格差)にも目を向けると何かいいことがあるのかも、なんて思ったりして。


結局何が言いたいのかよく分からない罠。

*1:そうやって人の反論をうまいこと切り返してうまく「入ってみたい」と思わせることができるのがいいテレアポさんなのだろう。漏れはそれがうまくできなかったから(ry